TIMELESS PEOPLE #012|Marker Starling──売れなくても、いい曲を書き続けるということ

TIMELESS PEOPLE

Marker Starlingの音楽を初めて聴くと、不思議な感覚になる。

新しいのか。

古いのか。

おしゃれなのか。

少しダサいのか。

ソウルなのか。

ジャズなのか。

AORなのか。

インディーポップなのか。

どれも正しいようで、どれもしっくりこない。

柔らかなエレクトリックピアノ。

少し頼りないドラムマシン。

派手ではない歌声。

70年代のソフトロックを思わせるコード。

ブラジル音楽のような軽さ。

ジャズのようなハーモニー。

そして、どうしようもなく切ないメロディ。

Marker Starlingは、Chris A. Cummingsというカナダ・トロントの音楽家によるプロジェクトだ。

世界的なスターではない。

巨大なヒット曲があるわけでもない。

Spotifyのチャートを支配したこともない。

しかし彼は四半世紀以上にわたって曲を書き続けている。

そして奇妙なことに、

Stereolab。

The High Llamas。

Junior Boys。

Caribou。

Destroyer。

Yo La Tengo。

Sandro Perri。

Owen Pallett。

DJ Koze。

そんな音楽家たちの周辺を辿っていくと、何度もChris A. Cummingsという名前に出会う。

派手ではない。

しかし、知っている人は知っている。

Marker Starlingとは、

「ミュージシャンが好きなミュージシャン」

なのである。

Chris A. Cummings

Chris A. Cummingsは1969年、カナダ・トロント生まれ。

音楽との付き合いはかなり早かった。

7歳からクラシックピアノを学び始め、20歳頃まで続けた。

さらに驚くことに、7歳の頃にはすでに自分で曲を書いていたという。

両親は、その曲をカセットテープに録音して残していた。

つまり彼にとって作曲は、

「大人になってから始めた趣味」

ではなかった。

子どもの頃から自然にやっていたことだった。

しかし、すぐにプロのミュージシャンになったわけではない。

York Universityで映画制作を学び、本格的に自分の音楽を録音し始めるのは20代後半になってからだった。

Mantler

Marker Starling以前。

Chris A. Cummingsは「Mantler」という名前で活動していた。

1990年代末からこの名義でライブや制作を始め、2000年に最初のアルバム『Doin’ It All』を発表する。

この時点ですでに、彼の音楽の基本形はほぼ完成していた。

Wurlitzerのエレクトリックピアノ。

ドラムマシン。

声。

基本的にはそれだけ。

豪華なバンドではない。

巨大なシンセサイザーでもない。

コンピューターで何百トラックも重ねるわけでもない。

エレクトリックピアノを弾きながら歌い、

後ろで小さなドラムマシンが鳴っている。

非常に簡素だ。

しかし、その簡素さが妙に耳に残る。

Wurlitzerという楽器

Marker Starlingを理解するうえで欠かせないのがWurlitzerだ。

Wurlitzer electric piano。

Rhodesと並び、1960年代から70年代のソウル、ジャズ、ロックで大量に使われた電気ピアノ。

アコースティックピアノより少し丸く、

しかしRhodesより少し乾いている。

強く弾くと独特の歪みが出る。

Chris Cummingsは長年、この楽器を自分の中心に置いてきた。

ギターを抱えたシンガーソングライターがいる。

ピアノの前で歌うシンガーソングライターもいる。

Marker Starlingの場合、

Wurlitzerの前に座る。

そこからすべてが始まる。

Rhythm Ace

そしてもう一つ。

ドラムマシン。

初期のMantlerでは、古いRhythm Aceのようなプリセット式ドラムマシンを使っていた。

現代のビートメイカーのように複雑なドラムをプログラミングするわけではない。

ボタンを押す。

ボサノヴァ。

スウィング。

ロック。

決められたパターンが鳴る。

その少しチープなリズムの上で、CummingsがWurlitzerを弾いて歌う。

普通ならデモテープのように聞こえるはずだ。

しかしMarker Starlingの場合、その「完成していなさ」が音楽になる。

『Doin’ It All』

2000年の『Doin’ It All』。

この作品はWurlitzer、ドラムマシン、ヴォーカルという極端に限定された編成を中心に作られた。

当時から彼の音楽には奇妙なバランスがあった。

ジャズのコード。

ソウルのメロディ。

宅録のチープさ。

そして少し頼りない声。

Steely Danのように洗練されたコードを使っているのに、録音はベッドルーム・ポップのように小さい。

そこにMarker Starlingの面白さがある。

『Sadisfaction』

2002年。

Mantler名義のセカンドアルバム『Sadisfaction』を発表。

ドイツのインディーレーベルTomlabからリリースされた。

タイトルからしてCummingsらしい。

Satisfactionではない。

Sadisfaction。

「満足」の中に「Sad=悲しみ」を入れてしまう。

悲しい。

でも少し笑える。

深刻なのか冗談なのか分からない。

この微妙なユーモアは、彼の作品全体に流れている。

『Landau』

2004年には『Landau』。

ここでも彼の音楽は大きく変わらない。

しかし少しずつアレンジが広がっていく。

ソウル。

ジャズ。

ソフトロック。

電子音楽。

70年代のシンガーソングライター。

ブラジル音楽。

それらが奇妙な形で混ざっていく。

ただし、決して「ヴィンテージ音楽の再現」にはならない。

なぜならドラムマシンが妙に安っぽいからだ。

豪華なコードとチープなリズム。

このアンバランスさがMantlerだった。

売れそうで、売れない

Chris Cummingsのキャリアには、一つの面白い特徴がある。

曲はいい。

ミュージシャンからも評価される。

海外でも作品が発売される。

ヨーロッパをツアーする。

有名アーティストともつながっていく。

なのに、

巨大には売れない。

本人も後に、長年レコードを作りながら「次こそ大きくなる」と思っていたという趣旨のことを語っている。

しかし、その瞬間はなかなか来なかった。

普通なら諦める。

あるいは流行へ寄せる。

Cummingsはどちらもしなかった。

ただ曲を書き続けた。

『Monody』

2010年。

Mantler名義では最後となるアルバム『Monody』を発表する。

ここでは初期のミニマルな宅録感からさらに広がり、多くのミュージシャンが参加した。

Sandro Perri。

Owen Pallett。

Jeremy Greenspan。

カナダのインディー音楽を追っている人なら、かなり豪華な名前だ。

特にJunior BoysのJeremy GreenspanはCummingsを高く評価してきた人物の一人。

Marker Starlingが一般的な知名度以上にミュージシャンから尊敬されていることがよく分かる。

「In Stride」

『Monody』の代表曲の一つが「In Stride」。

Marker Starlingの入口として非常に良い。

軽いリズム。

柔らかな鍵盤。

少しジャジーなコード。

何気ない歌。

派手な瞬間はほとんどない。

しかし何度か聴いていると、メロディが頭から離れなくなる。

この曲は後にドイツのDJ/プロデューサーDJ Kozeにも発見され、『DJ-Kicks』のコンピレーションへ収録された。

Marker Starlingの音楽は、こうやって時々、意外な場所から発見される。

MantlerからMarker Starlingへ

2012年。

Chris Cummingsは長年使ってきたMantlerという名前をやめる。

そして、

Marker Starling。

という新しい名前で活動を始める。

名前は変わった。

しかし別人になったわけではない。

Wurlitzer。

ドラムマシン。

メランコリー。

ソフトロック。

ジャズ。

ソウル。

基本的なDNAは同じだ。

ただしMarker Starlingになってから、音楽は少しずつバンド的になっていく。

Marker Starling Trio

名義変更当初は、

Chris Cummings。

Matt McLaren。

Jay Anderson。

によるトリオとして活動。

ベースと生ドラムが入ることで、Cummingsの曲が違う形で動き始める。

それまでのMantlerは、一人の男がエレクトリックピアノとドラムマシンで作る小さな世界だった。

Marker Starlingでは、そこに人間のグルーヴが入ってくる。

そして2015年。

新名義で最初の本格的なアルバムが登場する。

『Rosy Maze』

『Rosy Maze』。

Marker Starlingという名前を知るなら、まずこのアルバムからでもいい。

初期Mantlerのミニマルさに比べると、音はかなり豊かだ。

ホーン。

ギター。

ベース。

ドラム。

コーラス。

それでも中心にはCummingsの声と鍵盤がある。

Paul McCartney。

Steely Dan。

Todd Rundgren。

60年代の映画音楽。

The Beach Boys。

ソウル。

ブラジル音楽。

そんな音楽の記憶が、奇妙な形で混ざっている。

「Rosy Maze」という感覚

Rosy。

薔薇色。

Maze。

迷路。

薔薇色の迷路。

非常にMarker Starlingらしいタイトルだ。

明るいのか。

迷っているのか。

幸福なのか。

不安なのか。

彼の音楽には、この二つがいつも同時に存在する。

気持ちいいコードが鳴っている。

でも歌詞は少し寂しい。

軽いドラムが鳴っている。

でもどこか孤独。

悲しい曲なのに、聴いていると少し笑ってしまう。

Cummings自身は自分の音楽を、

「Melancholy Party Jams」

と表現してきた。

これ以上ぴったりな言葉はない。

メランコリー・パーティー・ジャム

Melancholy。

憂鬱。

Party。

パーティー。

普通なら同時に存在しない。

しかしMarker Starlingでは存在する。

パーティー会場なのに、一人だけ少し寂しい。

みんな楽しそうなのに、自分だけ考え事をしている。

でも帰るほどではない。

もう一杯飲む。

そんな音楽だ。

日本との関係

Marker Starlingには、日本との意外に深い関係がある。

Mantler時代の2011年には、日本独自企画のコンピレーション『Fortune Smiled Again』が発売された。

そして『Rosy Maze』も日本でリリースされ、2016年には初来日。

その後も日本でツアーを行っている。

欧米ではカルト的な存在であるMarker Starlingが、日本では少し違った形で受け入れられてきた。

考えてみれば不思議ではない。

AOR。

ソフトロック。

ブラジル音楽。

ジャズ。

シティポップ。

こうした音楽を掘る文化が日本には昔からある。

Marker Starlingの音楽は、その感覚と非常に相性がいい。

『I’m Willing』

2016年。

『Rosy Maze』の次に発表されたのが『I’m Willing』。

ここでCummingsは突然、カバーアルバムを作る。

しかもアレンジは極端にシンプル。

Yamaha CP-70。

ドラムマシン。

声。

Mantler初期のような世界へ戻った。

取り上げる曲も独特だ。

John Cale。

Sérgio Mendes。

Caetano Veloso。

Classics IV。

有名曲だけではない。

長年レコードを集めてきたCummingsが、自分の好きな曲を静かに歌う。

カバーとは何か

Marker Starlingのカバーは、

「原曲を超えてやろう」

というタイプではない。

むしろ曲を裸にする。

豪華なストリングス。

大きなドラム。

派手なプロダクション。

それらを全部取り除く。

残るのは、

メロディ。

コード。

言葉。

良い曲は、それだけでも成立する。

ソングライターであるCummingsだからこそできるカバーだ。

Laetitia Sadier

Marker Starlingを語るうえで重要な人物が、StereolabのLaetitia Sadier。

二人は何度も音楽的に交差している。

『I’m Willing』にもSadierが参加。

Cummingsが書いた「Deep Background」は、Laetitia Sadier Source Ensembleによって録音された。

さらに後の『High January』でも共演する。

StereolabとMarker Starlingには共通点がある。

古い音楽を愛している。

しかし懐古趣味ではない。

60年代。

70年代。

ブラジル音楽。

ラウンジ。

ソフトロック。

電子音。

過去の音楽を材料として使いながら、どこにも存在しなかった音を作る。

『Anchors & Ampersands』

2017年の『Anchors & Ampersands』は少し特殊な作品だ。

新曲だけで構成された普通のアルバムではない。

Cummingsが長い年月の中で書いてきた曲を改めて見つめ直し、再構築した作品。

つまり自分自身の過去をカバーしているようなアルバムでもある。

20年近く曲を書いてきた人間だからこそできる。

若い頃に書いた曲を、中年になった自分が歌う。

同じ言葉でも意味が変わる。

時間そのものがアレンジになる。

『Trust an Amateur』

続く『Trust an Amateur』。

タイトルが素晴らしい。

「アマチュアを信じろ」。

普通なら音楽家は、

プロフェッショナル。

完璧。

高品質。

そういうものを目指す。

Cummingsは逆だ。

Amateur。

アマチュア。

未完成。

不器用。

しかしアマチュアという言葉の語源を辿れば、

「愛する人」

という意味にもつながる。

お金になるからやるのではない。

好きだからやる。

Marker Starlingというキャリアそのもののようなタイトルだ。

人生が曲になる

『Trust an Amateur』が生まれた時期、Cummingsの人生には大きな出来事が重なっていた。

親しい友人の死。

そして自分の子どもの誕生。

死と誕生。

悲しみと喜び。

終わりと始まり。

Marker Starlingの音楽に昔から存在していた二面性が、現実の人生でも同時にやってきた。

Melancholy Party Jams。

冗談のようだった言葉が、急に現実味を持つ。

『High January』

2020年。

『High January』。

ここで重要な人物が登場する。

Sean O’Hagan。

The High Llamasを率い、Stereolabとも深い関係を持つ音楽家。

Cummingsは彼をプロデューサーに迎えた。

これは非常に自然な組み合わせだった。

The High Llamasもまた、

Beach Boys。

ソフトロック。

映画音楽。

ブラジル音楽。

複雑なハーモニー。

そうした過去の音楽を独自のポップへ変換してきた。

「Waiting for Grace」

『High January』にはLaetitia Sadierも参加。

特に「Waiting for Grace」。

CummingsとSadier。

二人の声が並ぶ。

Marker Starlingの音楽に昔から存在していたStereolabとの精神的な近さが、実際の音として現れた瞬間でもある。

しかし豪華な共演だからといって派手にはならない。

やはり静かだ。

そこがいい。

『Diamond Violence』

2022年末から2023年にかけて発表された10作目のアルバム『Diamond Violence』。

ここまで来ると、Chris Cummingsはすでに20年以上アルバムを作り続けている。

流行は何度も変わった。

インディーロック。

エレクトロクラッシュ。

ブログハウス。

EDM。

ベッドルーム・ポップ。

TikTok。

ストリーミング。

しかしMarker Starlingは、驚くほど自分の速度を変えない。

Wurlitzer。

ソフトな声。

少し奇妙なコード。

メランコリー。

基本はずっと同じ。

それなのに古くならない。

『CAROLE & TUESDAY』

日本との関係でもう一つ面白い出来事がある。

2019年のアニメ『CAROLE & TUESDAY』。

ここに登場するキャラクター、Desmond。

その歌唱を担当したのがMarker Starlingだった。

アニメを見て、

「この声は誰だ?」

と思い、Marker Starlingへ辿り着いた日本のリスナーもいる。

トロントで20年間静かに曲を書いてきた男の声が、日本のアニメを通して新しい世代へ届く。

彼らしい、少し遠回りな成功だ。

なぜ日本で愛されるのか

Marker Starlingの音楽には、日本の音楽好きが反応しやすい要素が多い。

Steely Dan。

Todd Rundgren。

The Beach Boys。

AOR。

ブラジル音楽。

ジャズ。

ソフトロック。

シティポップ。

レコード文化。

しかも、それらを露骨にコピーしない。

「分かる人には分かる」程度に残す。

この感覚は、日本のレコードショップ文化と相性がいい。

大量に売れる音楽ではない。

しかし棚の奥で誰かに発見される。

Marker Starlingは、そういう音楽だ。

Steely Danとの距離

Marker Starlingを聴いてSteely Danを思い出す人は多い。

複雑なコード。

ジャズ的なハーモニー。

乾いたユーモア。

都会的な孤独。

しかし大きな違いがある。

Steely Danは完璧主義だった。

最高のスタジオ。

最高のセッションミュージシャン。

何度も録り直す。

極限まで磨き上げる。

Marker Starlingは逆方向にいる。

古いドラムマシン。

小さなキーボード。

少し不安定な声。

完璧ではない。

だからこそ人間が見える。

AORなのにAORではない

Marker StarlingにはAOR的な気持ちよさがある。

しかしAORそのものではない。

AORが高級ホテルのラウンジなら、

Marker Starlingは、

閉店30分前の少し古いバー。

客は数人。

照明は暗い。

店員は片付けを始めている。

でも流れている音楽だけは妙にいい。

そんな感じだ。

「売れなかった」という成功

Chris Cummingsのキャリアを見ると、

「成功とは何か」

を考えさせられる。

Billboard 1位。

グラミー。

スタジアムツアー。

何百万枚。

そういう基準なら、Marker Starlingは巨大な成功者ではない。

しかし、

20年以上アルバムを作った。

世界中でライブをした。

日本でも演奏した。

Stereolabのメンバーと共演した。

Owen Pallettと仕事をした。

DJ Kozeに発見された。

CaribouやJunior Boys周辺ともつながった。

アニメの歌まで歌った。

そして今も曲を書いている。

これは失敗なのだろうか。

むしろ、多くの音楽家が途中で消えていく世界では、とんでもない成功なのかもしれない。

「次こそ売れる」と思い続ける

Cummingsは長いキャリアの中で、

次の作品こそ大きくなるかもしれない。

と思いながら音楽を作ってきた。

しかし大ブレイクは来なかった。

それでも次を作る。

また作る。

そしてまた作る。

ここにMarker Starlingという人物の魅力がある。

成功したから続けているのではない。

続けること自体が生活になっている。

ミュージシャンズ・ミュージシャン

Marker Starlingについて英語圏の記事を読んでいると、

「your favourite musician’s favourite musician」

というような表現に出会う。

あなたの好きなミュージシャンが好きなミュージシャン。

一般には知られていない。

しかし音楽家は知っている。

こういう存在は時々いる。

売上とは別の場所で影響を与える人。

Marker Starlingはまさにそのタイプだ。

Cici Arthur

近年のCummingsはMarker Starlingだけに留まらず、Joseph Shabason、Thom GillとともにCici Arthurというプロジェクトにも参加している。

ここでもトロントの実験的なジャズ/ポップのネットワークとつながっている。

長く活動しているからといって、自分の過去だけを繰り返しているわけではない。

新しい世代や別の音楽家と演奏する。

それによって自分の音楽も少しずつ変わっていく。

初めて聴くなら

Marker Starlingを初めて聴くなら、まず「In Stride」。

彼の世界が非常に分かりやすい。

次に『Rosy Maze』。

ここでバンドとしての豊かなサウンドを聴く。

そして『I’m Willing』。

一気にミニマルになる。

この二枚を続けて聴くと、彼の振れ幅が分かる。

さらに、

『Anchors & Ampersands』

『Trust an Amateur』

『High January』

へ。

そこからMantler時代へ戻る。

『Doin’ It All』

『Sadisfaction』

『Landau』

『Monody』。

新しい作品から過去へ遡ると、

「実は最初からほとんど変わっていない」

ことに気づく。

いい曲は、大声を出さなくても残る

Marker Starlingの音楽には、大きな瞬間があまりない。

巨大なサビ。

爆発するドラム。

絶叫。

ギターソロ。

劇的な転調。

そういうものをほとんど必要としない。

エレクトリックピアノ。

小さなビート。

声。

それだけで曲を成立させる。

だから誤魔化しが効かない。

メロディが良くなければ退屈になる。

コードが良くなければ残らない。

歌詞に何もなければ忘れられる。

Marker Starlingの音楽が20年以上聴かれているのは、

結局、曲がいいからだ。

売れなくても、いい曲を書き続けるということ

音楽業界では、

若さ。

話題性。

再生回数。

フォロワー。

バイラル。

チャート。

数字が常に付きまとう。

Marker Starlingのキャリアは、その世界から少し外れている。

2000年に最初のアルバムを出した。

大ヒットしなかった。

2002年。

また作った。

2004年。

また作った。

2010年。

また作った。

名前をMantlerからMarker Starlingへ変えた。

2015年。

また作った。

2016年。

また作った。

2017年。

また作った。

2018年。

また作った。

2020年。

また作った。

2022年。

また作った。

その間に世界の音楽は何度も変わった。

しかしChris A. Cummingsは、

Wurlitzerの前に座り、

コードを弾き、

歌を書いた。

それだけだ。

もしかするとTIMELESS PEOPLEという言葉が似合うのは、こういう人物なのかもしれない。

時代を代表したスターではない。

時代に勝った人でもない。

時代が変わっても、

同じように音楽を作り続けている人。

Marker Starlingの作品を聴いていると、

成功しなければ続ける意味がない、

という考え方そのものが少し馬鹿らしくなってくる。

好きだから作る。

誰かが聴く。

その誰かが、また別の誰かへ教える。

日本のレコードショップで発見されることもある。

DJ Kozeがコンピレーションへ入れることもある。

Stereolabのメンバーが歌うこともある。

アニメから突然、新しいリスナーがやってくることもある。

音楽は、そうやって妙な経路で生き残る。

Marker Starlingは巨大なスターにならなかった。

でも消えなかった。

そして四半世紀以上経った今も、

誰かが初めて彼の曲を発見している。

それはチャート1位とは違う種類の成功だ。

流行より遅く。

アルゴリズムより静かに。

それでも確実に残っていく。

Marker Starlingが証明しているのは、

いい曲には、締め切りも賞味期限もないということなのかもしれない。

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